シカの生態(視覚編)

夜、車の運転中にヘッドライトに照らされた鹿を見たことがある人は、鹿の目が不気味に光っているのに恐怖を感じた経験があると思います。この現象は、鹿が暗い場所で物を見るための一連の特殊な適応によるもので、他の多くの野生動物にも同様の特徴があります。
1.野生動物の視覚
私達人間を含む動物の目に入った光は、瞳孔を通って、目の奥にある網膜に当たる光の量を調節されます。網膜に入った光は、桿体と錐体と呼ばれる特殊な受容体に当たります。錐体は、細かい部分や色を見るのに役立ち、明るい場所で最も効果を発揮します。桿体は、動きや大まかな部分を見るのに役立ち、暗い場所で最も効果を発揮します。人間や昼間に活動する動物には錐体が多く、昼間に活動しない夜行性の動物には桿体が多い傾向があります。夜行性の動物の中には錐体が全くないものもあり、動きを感知することには長けていますが、細かい部分を認識することは苦手です。また夜間の捕食者(外敵・天敵)の中には、錐体を全く持たず、突然の動きで獲物を見つけ、攻撃を仕掛ける者もいます。
2.輝板
鹿や犬、猫などの目が光る原因となっているのは、「輝板」と呼ばれる構造です。これは、網膜の後ろにある、光を反射する特殊な細胞の層です。鹿の目に光が入ると、網膜にある多くの桿体受容体に当たり、捕食者(外敵・天敵)の動きを識別するのに役立ちます。そして輝板は、網膜を通して光を反射させ、桿体受容体が外界からの情報を得るチャンスを倍増してくれます。輝板に明るい光が当たると、明るい光が反射され、遠くからでも見ることができる、すなわち鹿からすると、こちらの動きが倍増してよく見えることになります。
しかも、鹿の目は頭の横にあるので、310度以上の視野があります。最大限研ぎ澄まされた光受容体(桿体受容体)によってわずかな動きでも感知出来るようになっています。
3.アイシャイン効果
一般に輝板を持っている動物の目に光が当たると、瞳が輝くように見える効果をアイシャイン効果と呼んでいます。動物の目の輝きは、同じ種類の動物でも異なります。遺伝、食事、怪我などの要因により、ある鹿の目の輝きと別の鹿の目の輝きは大きく異なる場合があります。獣医師は輝板を使って視力障害の可能性を診断することに応用しています。光が閉ざされているということは網膜に問題があるか白内障で目の光の出入りが妨げられている可能性があるからです。
4.瞳孔の大きさ
鹿は夜明けや夕暮れ時に活動する「薄明薄暮性」と呼ばれる行動をとることが多いため、日中に起きている時間が長い動物に比べて目の瞳孔が大きいという特徴があります。暗闇の中では、瞳孔が目の前の大部分を覆ってしまうため、目が光る効果はさらに大きくなります。これにより、網膜の下にある光沢のある層の多くが見え、光り輝く効果が高まります。
5.夜行性の動物と瞳孔
夜行性の動物の目は、その特徴的な部分であり、光の変化に素早く反応する大きな楕円形の瞳を持っていることが多いと言われています。この瞳孔と他の物理的な適応により、どんな光でも最大限に活用し、暗闇の中でも問題なく機能することができるのです。
瞳孔は、目の前にある機能物で、後ろの網膜に届く光の量を調節します。明るい場所では、瞳孔が収縮して目に入る光の量を制限し、目が眩んだり網膜が損傷したりするのを防ぎます。暗闇では、瞳孔はリラックスして大きくなり、できるだけ多くの光を取り込みます。夜行性の動物は、昼間に活動する動物に比べて、一般的に瞳孔を大きく開くことができます。
夜行性の動物は、瞳孔の大きさに加えて、目が非常に大きい動物が多いのも特徴です。このため、瞳孔が大きくなり、リラックスすると目全体よりも大きくなる動物もいます。
6.色覚
一般論的に鹿は赤と緑の色盲です。つまり鹿は青と赤の区別はできますが、緑と赤、オレンジと赤の区別はできません。鹿は青、紫、藍の色覚は非常に良いと言われています。
また鹿は人間よりも紫外線(UV)を見ることが出来ると報告されていて、夜間は外敵・天敵を含めて視認できると言われています。紫外線は光の中で最も波長が短く人間にはほとんど見えません。私たち人間の目はこの波長を遮断し、日中の視界を確保して目を保護しています。鹿にはこの紫外線フィルターがないため、昼間は細かいものが見えませんが夜は視界が広がると考えられています。
(参考:Wikipedia)